【研究の要旨とポイント】 近藤絶縁体YbB12(12ホウ化イッテルビウム)に対し、バルク感度の高い超音波実験により磁気音響量子振動(MAQO)の探索を通じてその起源解明を試みました。 最大65 Tまでの強磁場、最小485 mKまでの極低温という条件で超音波実験を行ったところ、磁場誘起金属相でのみ磁気音響量子振動が観測され、絶縁体相では観測されませんでした。 本研究成果は、近藤絶縁体における量子振動の起源を探る上で重要な手がかりを与えるものです。 【研究の概要】 東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科の栗原 綾佑助教、東京大学 物性研究所の宮田 敦彦准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の今城 周作准教授、神戸大学大学院 理学研究科 物理学専攻の日比野 瑠央助教らの共同研究グループは、最大65 T(テスラ)までの強磁場および最小485 mKまでの極低温において、超音波を用いて近藤絶縁体(*1)YbB12における磁気音響量子振動(MAQO, *2)を探索しました。実験に用いた単結晶試料は、茨城大学の伊賀 文俊名誉教授(現総合科学研究機構 サイエンスコーディネータ)により提供されました。 YbB12は絶縁体でありながら磁気抵抗や磁気トルク、比熱などで磁気量子振動(MQO)が観測されていますが、その起源は未解明となっています。本研究グループは、結晶内部(バルク)の性質を敏感に検出できる超音波測定を用いて、音響応答の観点から絶縁体相に量子振動が本当に存在するかどうかを検証しました。 今回の研究では、先行研究と同様に磁気抵抗と磁気熱量効果におけるMQOを確認しました。一方、3He冷凍機(*3)を用いた485 mKまでの極低温環境と非破壊パルスマグネット(*4)による65 Tまでの強磁場環境を組み合わせた超音波測定では、絶縁体相におけるMAQOは確認されませんでした。MAQOは磁場誘起金属相においてのみ観測され、絶縁体相と金属相とで音響応答が明確に異なることが示されました。 本研究は、YbB12の絶縁体相における音響特性について新たな実験的知見を提供し、絶縁体における量子振動の起源解明に向けた研究に貢献するものです。 本研究成果は、2026年6月16日に国際学術誌「Physical Review B」にオンライン掲載されました。さらに、本論文は、編集者および査読者から重要性・独創性・明快さにおいて高い評価を受け、掲載論文の中でも特に優れた論文として「Editors’ Suggestion」に選定されました。 図1 (a) YbB12の結晶構造と相図 (b) フェルミ粒子-音響フォノン相互作用のイメージ図。超音波(音響フォノン)は、フェルミ面近傍の粒子と相互作用する。これにより、量子振動を示す粒子の存在の有無を調べることができる。 【研究の背景】 通常、金属にはフェルミ面と呼ばれる電子の境界面が存在し、強磁場中で磁気量子振動(MQO)と呼ばれる周期的な振動現象が生じます。一方、絶縁体にはフェルミ面が存在しないため、MQOは原理的に起きないと考えられています。ところが近年、「近藤絶縁体」と呼ばれる特殊な物質において、絶縁体相にもかかわらずMQOが観測されたという報告が複数なされています。YbB12では約45 Tの磁場を印加すると絶縁体から金属へと転移し、金属相においてMQOが観測されます(図1(a))。しかし、その直下の絶縁体相においてもMQOと思われる振動が報告されており、その起源として「表面状態」「バルクのフェルミ面」「電荷を持たない中性準粒子」など複数の仮説が提唱されているものの、いまだ決着はついていません。 先行研究では、電気輸送特性を反映する電気抵抗、磁気的性質を反映する磁気トルク、熱特性を反映する比熱など、複数の物理量においてMQOが観測されてきました。固体物性研究では、結晶格子(フォノン)と電子状態の相互作用の理解も重要ですが、この観点からの研究は限られており、絶縁体中のMQOの起源には未解明な点が残されていました。 そこで本研究では、フォノンと電子状態の相互作用を音響特性として調べられる超音波測定を用いて(図1(b))、YbB12の絶縁体相の磁気音響量子振動(MAQO)を検証しました。 【研究結果の詳細】 本研究では、MQOが報告されている試料を準備したうえで、先行研究と同様に磁気抵抗および磁気熱量効果においてもMQOが観測されることを実験的に確認しました。次に、YbB12に強磁場を印加しながら超音波により弾性定数を測定しましたが、絶縁体相においてMAQOは観測されませんでした(図2)。一方、磁場誘起金属相では65 T(テスラ)までの測定においてMAQOが明確に観測されました。この結果は、絶縁体相でMQOを担う