【研究のポイント】 光合成で水を分解し、酸素を発生させる巨大タンパク質複合体「光化学系II(PSII)」について、外側に結合する3種類のタンパク質をいったん取り外し、再び結合させた状態の立体構造を2.0 Åの高分解能で決定しました。 再結合させた3種類の表在性タンパク質(PsbO、PsbV、PsbU)は、PSII本体の正しい位置に戻っていることが分かりました。 一方で、酸素発生反応に関与する重炭酸イオンの向きや水分子の配置にわずかな変化が見つかりました。 特に、酸素発生反応に関わる水の通り道と考えられている「O1チャネル」で、水分子の並び方や水素結合ネットワークが乱れていました。 本研究により、表在性タンパク質が正しい位置に戻っていても、内部の水分子や小さな分子の配置が完全には元に戻らないことで、光合成の酸素発生活性が低下する可能性が明らかになりました。 【研究概要】 静岡大学農学部の長尾遼准教授は、岡山大学学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎化学研究所)の中島芳樹助教と沈建仁教授らと共に、好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus由来の光化学系II(PSII)(注1)に対して、3種類の表在性タンパク質PsbO、PsbV、PsbU(注2)をいったん取り外し、再び結合させたPSIIの分子構造をX線結晶構造解析(注3)により決定しました。 解析の結果、再結合させたPsbO、PsbV、PsbUはいずれもPSII本体の正しい位置に結合していることが分かりました。一方で、酸素発生反応に関わる金属クラスター周辺の全体構造は大きく保たれていたものの、重炭酸イオンの向きや周囲の水分子との相互作用に変化が見られました。さらに、酸素発生反応に必要な水の通り道と考えられているO1チャネルでは、水分子の配置や水素結合ネットワークに乱れが確認されました。これらの結果から、表在性タンパク質が正しい位置に戻っていても、PSII内部の水分子や小さな分子の配置が完全には元に戻らず、それが酸素発生活性の低下につながる可能性が示されました。 なお、本研究成果は2026年6月25日に国際雑誌「ACS Catalysis」に掲載されました。 【研究者コメント】 静岡大学 農学部 准教授 長尾 遼 PSIIは、水を分解して酸素を発生させる、地球上の生命にとって極めて重要なタンパク質複合体です。本研究では、表在性タンパク質が正しい位置に戻っていても、内部の水分子や重炭酸イオンの配置にわずかな乱れが残ることを構造的に示しました。 【研究背景】 酸素発生型光合成(注4)は、植物、藻類、シアノバクテリアが太陽光を利用して水を分解し、酸素を発生する生命にとって根源的な代謝過程です。この反応の中心を担うPSIIは、クロロフィルやカロテノイド、金属クラスターなどを含む巨大な膜タンパク質複合体であり、水を分解して電子とプロトンを取り出すことで、地球上の酸素環境を支えています。 PSIIの酸素発生反応は、マンガン、カルシウム、酸素からなるMn4CaO5クラスターで進行します。この金属クラスターの周囲には、水分子やアミノ酸残基が精密に配置されており、さらにPSIIの外側にはPsbO、PsbV、PsbUなどの表在性タンパク質が結合して、酸素発生反応に適した構造環境を維持しています。 これまで、PSIIから表在性タンパク質をいったん取り外し、再び結合させる再構成実験が行われてきました。再構成により酸素発生活性は大きく回復しますが、天然型PSIIと比べると完全には戻らず、その理由は十分に分かっていませんでした。原因として、表在性タンパク質が元の位置に正しく戻っていない可能性、あるいは正しく戻っていても酸素発生中心やその周辺の分子環境に微細な変化が残る可能性が考えられてきました。 今回、X線結晶構造解析によって、PsbO、PsbV、PsbUを再結合させたPSIIの高分解能構造を決定することで、これらの表在性タンパク質がPSII本体の正しい位置に戻っていることが明らかになりました。一方で、重炭酸イオンの向きや周囲の水分子との相互作用、さらにO1チャネルにおける水分子の配置と水素結合ネットワークに局所的な乱れが見つかりました。これにより、PSIIの酸素発生活性が完全には回復しない背景には、タンパク質全体の大きな構造変化ではなく、内部の水分子や小さな分子の精密な配置の乱れが関係している可能性が示されました。 【研究の成果】 本研究により、表在性タンパク質PsbO、PsbV、PsbUを再結合させたPSIIの高分解能立体構造が明らかになりました。その主な成果は以下の通りです(図1)。 再構成PSIIの高分解能構造の決定 本研究では、好熱性シアノバクテリアThermosyne