静岡大学理学部の関朋宏准教授の研究グループは、同所属の守谷誠准教授、高知工科大学理工学群の林正太郎教授らと共同で、液晶性を示す分子骨格を剛直な結晶格子の中に密に整列させることで、温度変化に応じて結晶の長さが最大1.52倍まで変化する新規分子結晶アクチュエーターの開発に成功しました。 【研究のポイント】 液晶分子骨格(nIB)を金錯体結晶(Au-nIB)の格子内に密集・整列させることで、温度変化による相転移が巨視的な一軸方向の結晶伸縮に変換されることを実証しました。 伸縮前後の結晶の長さの比(ρL)が最大1.52に達し、これは分子結晶としてトップクラスの値です。また、結晶の長さ変化がメソゲン層(注1)の厚みの変化と逆比例するという定量的な設計則を確立しました。 アルキル鎖の長さを変えることで伸縮の方向や大きさを制御でき、ドメインエンジニアリングにより単結晶上で多段階の伸縮を自在に操れることも示しました。 将来的に、人工筋肉・マイクロアクチュエーター・ソフトロボティクスなど次世代の柔軟デバイスへの応用が期待されます。 なお、本研究成果は、2026年6月21日(米国東部時間)にアメリカ化学会の学術誌「Journal of the American Chemical Society」に掲載されました。 【研究者コメント】 静岡大学 理学部 准教授 関 朋宏 液晶性を示す分子の特徴を結晶格子の中に埋め込むことで、分子結晶の特異な変形(伸縮)を実現することを見いだしました。今後、さまざまな分野で応用したいと考えています。 【研究背景】 外部刺激に応じて形状を変える分子結晶は、アクチュエーター・センサー・マイクロロボティクスへの応用が期待される注目材料です。こうした「形を変える結晶」の中でも、結晶が軸方向に大きく伸縮するものは特に希少で、そのような大変形を合理的に設計する指針はこれまで存在しませんでした。一方、液晶材料は高い配向秩序を持ちながら、温度変化で層間距離が変化するという柔軟な特性を持っています。研究グループは、この液晶の特性を結晶の硬い格子構造と組み合わせることで、結晶内の分子レベル(ミクロ)の配列の変化を、結晶そのもの(マクロ)の一軸伸縮に、直接的に変換できると考え、研究に取り組みました。 【研究の成果】 研究グループは、液晶材料(注2)として知られる5CB(4-シアノ-4'-ペンチルビフェニル)の異性体である「5IB」とそのアルキル鎖長の異なる誘導体nIB(n = 3, 4, 5, 7;nはアルキル炭素数)に注目しました(図1a)。nIBはシアノ基の代わりにイソシアノ基を持ち、金イオンと配位結合することで金錯体「Au-nIB(n = 3, 4, 5, 7)」を形成します(図1b)。 Au-nIBの再結晶によって得られた全ての結晶は、温度変化によって結晶相転移(注3)が起こり、これに伴い結晶長が伸縮することがわかりました。アルキル鎖の炭素数がわずかに変わるだけでも、伸縮長の大きさや何段階の結晶長変化が起こり変化しました。最も興味深いのはAu-4IBであり、加熱・冷却のサイクルを通じて3つの多形(α相、β相、γ相)間で二段階の長さ変化が起こりました。特に、α相を基準にした相転移前後の結晶長の比ρLは、γ相においてρL = 1.52という際立って大きな伸長率が実現しました(図1c)。この値はこれまでに報告された分子結晶の中でも最高水準に相当します。 Au-nIBの結晶では、液晶骨格(nIB部位)が密に整列してスメクチック液晶に類似した層構造を形成し、メソゲン層はアルキル鎖の交互貫入層によって隔てられた構造をとります(図1d)。温度変化によって相転移が起こっても、このようなスメクチック液晶相に類似する分子配列は維持されますが、メソゲン層の厚みdmが変化します。α相を基準にした相転移前後のメソゲン長の比ρmは、結晶の長さの比と反比例することがわかりました(ρL ≈ 1/ρm)。この関係は全ての誘導体(n = 3, 4, 5, 7)において定量的に成立することが単結晶X線回折解析により確認されました(図1f)。つまり、結晶格子内の「液晶の様な分子の配列変化」が、直接的に大きな結晶の長さ変化を引き起こしている、ということを示しています。 図1 a) 5CBと5IBおよびb) Au-nIBの分子構造。c) Au-4IBからなる結晶の写真と温度変化による結晶の伸縮。d) Au-4IBのα相の結晶構造。e) ρL や ρmの定義を示す模式図f) Au-nIBの各多形のρL と 1/ρmの関係を示すプロット。 【今後の展望と波及効果】 本研究では、「液晶性を示す分子骨格を高密度に結晶格子に配列」させれば、分子結晶の伸縮を実現できることを見いだしまし