■発表のポイント ○急速な増殖能力とタンパク質含量の高さから、家畜飼料やバイオ燃料の原料として注目されているウキクサ植物は、ウキクサミズゾウムシなどの草食動物による食害を受けますが、「どの種が好まれるのか」「植物の生理状態が摂食をどう左右するのか」は十分に解明されていませんでした。 ○日本各地に分布するウキクサミズゾウムシが、水田等で共存する3種のウキクサ植物に対し、ウキクサ > アオウキクサ > ヒメウキクサの順で明確な摂食嗜好性を示すことを明らかにしました。また、植物の花や実に含まれる色素「アントシアニン」を葉状体(フロンド)に蓄積した個体は、非蓄積個体に比べて食害量が 約3〜4分の1に減少し、アントシアニンが食害忌避物質として機能する可能性を示しました。 ○本成果は、ウキクサ植物の群集構造の理解を深めるとともに、ウキクサ植物の安定的・効率的な半野外環境における栽培技術開発への基礎的知見となります。 ■概 要 ウキクサ植物は急速な増殖能力とタンパク質含量の高さから、家畜飼料やバイオ燃料の原料として注目されています。自然環境では複数種のウキクサが同所的に共存し、ウキクサミズゾウムシなどの草食動物による食害を受けますが、「どの種が好まれるのか」「植物の生理状態が摂食をどう左右するのか」は十分に解明されていませんでした。 磯田珠奈子 助教(安田女子大学)、髙橋伽乃(当時:県立広島大学・学部生)、八木宏樹 助教(北里大学)、村中智明 講師(当時:名古屋大学、現:龍谷大学)、小山時隆 准教授(京都大学)、金岡雅浩 教授(県立広島大学)らの共同研究グループは、日本産ウキクサミズゾウムシを用い、日本で見られる3種のウキクサ ―ウキクサ、ヒメウキクサ、アオウキクサ― に対する摂食嗜好性を評価しました。その結果、ウキクサミズゾウムシは ウキクサ > アオウキクサ > ヒメウキクサ の順に明確な選好を示すこと、また栄養欠乏というストレス条件によりアントシアニンを蓄積したウキクサでは食害が大幅に抑制されることが明らかになりました。 本研究により、ウキクサ植物に対する草食動物の摂食嗜好性が種間の特性差と同一種内の生理状態(二次代謝産物の蓄積)の両方に強く依存することが示されました。これは、ウキクサ群集の維持機構の理解、ならびに食害に強いウキクサ植物の選抜・育種や屋外栽培技術の最適化への応用が期待される知見です。 本研究成果は、『Plant Species Biology』オンライン版(2026年6月23日付)に掲載されます。 図 ウキクサミズゾウムシの選択的食害 ◆ 研究支援 本研究は、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)、および県立広島大学令和5年度重点研究事業「先端的研究」の支援を受けて行われました。 ◆ 詳細な説明 1.背 景 ウキクサ植物(サトイモ科ウキクサ亜科[1])は世界中の淡水域に分布する小型浮遊性水生植物で、近年、家畜飼料やバイオ燃料原料としての利用が国際的に注目されています。日本には12種が分布し、なかでもウキクサ(Spirodela polyrhiza)・ヒメウキクサ(Landoltia punctata)・アオウキクサ(Lemna aequinoctialis)の3種は水田やため池でよく見られ、しばしば同所的に共存しています。これらはウキクサミズゾウムシ[2]などの草食動物による食害を受けますが、草食動物がどの種を選択的に食べるか、また植物の生理状態がその嗜好性をどう変動させるかは、これまで十分に検証されていませんでした。 植物は草食動物に対し、フェノール類などの二次代謝産物による化学防御を進化させてきました。例えば、渋柿の強い渋みは、果実を未熟なうちに食べられないようタンニンを蓄積している結果として知られています。アントシアニン[3]もそうした二次代謝産物の一つで、強光や栄養欠乏などのストレス条件下で蓄積が誘導されることが報告されています。これまでの研究の多くは種間で固定化された形質の比較に主眼が置かれており、同じ種でも生理状態の違いによって食害されやすさが変わるのかという観点からの直接検証はほとんど行われていませんでした。 2.研究成果の内容 共同研究グループは、鹿児島県で採集した日本産ウキクサミズゾウムシを実験室で維持し、以下の摂食試験を実施しました。 1.単一種実験:3個体のウキクサミズゾウムシに対し、ウキクサ・ヒメウキクサ・アオウキクサ のいずれか1種を与えて3日後の食害面積を測定したところ、ヒメウキクサの食害面積はウキクサの約3分の1、アオウキクサの約4分の1にとどまりました。食害痕の数も少なく、1つの食害痕の面積も小さい傾向が認められ、ウキクサミズゾウムシがヒメウキクサを口にする頻度・量