1.背景・課題 ─ 感覚だけで語られてきた「グルーヴ」 誰もが五線譜で音の高さを読み、共有し、再現できる一方で、リズムやグルーヴには体系化された枠組みがありません。グローバル市場で評価を分ける「グルーヴの設計」は、これまで日本の制作現場において「聴いて」「感じるもの」として語られ、言語化されず、個人のセンスに委ねられてきました。米国法人 ONTSUBU LLC(代表:谷 美幸)は、この領域を工学的に分析し、記述・共有・再現が可能な理論体系として構造化する新メソッド『The ONTSUBU Method™』を、バークリー音楽大学准教授 David Cowan 氏と共同開発することを、ここに発表します。 ※イメージ図 2.グルーヴとは何か ─ 人にはどう聴こえているのか? そもそも、グルーヴとは何なのか。本メソッドの特徴は、リズムやグルーヴを、脳の「予測」のメカニズムとして捉え直しているところです。例えば、水道からポタポタと落ちる水の音。水がポタッと落ちた瞬間、脳は「次に鳴る音」の予測を始めます。つまり、音が鳴っていない時間に、脳は予測によって音を埋めているのです。これは認知科学で「予測符号化(Predictive Coding)」と呼ばれる、確立した考え方です。 イメージ図 つまり、鳴っている音そのものではなく、鳴っていない時間の拍——脳が予測で埋める「サイレントビート」が大きな鍵を握っているのです。脳は、音が鳴っていない時間に拍を数え、その予測がぴたりとハマれば満たされ、わずかに裏切られると、新たな心地よさが生まれます。この"拍のゆらぎ"の設計で、グルーヴの質が決まると、本メソッドは解釈しています。そして、演奏家が無意識に行っているこの"拍のゆらぎ"を工学的に分析し、記述科学から設計科学(エンジニアリング)へとつなぐ研究を進めています。 本メソッドに、バークリー音楽大学の David Cowan 准教授による、世界最高峰の音楽教育現場からの知見が加わります。両者の協働により、言語学・認知科学・理論物理学・脳科学の知見に基づいたリズムワーク等を含む音楽教育プログラムを構築しているのです。 3.メソッドの哲学 ─ 日本の「間」から生まれた 本メソッドの中核である独自フレームワーク「音間理論(Between the Note)」は、日本の美意識である「間」の哲学と、実際の生演奏の経験から生まれました。音と音のあいだの沈黙を、単なる「音のない時間」ではなく、「音符と音符のあいだにあるアート表現」として捉え直したのです。そして、この「間」が、呼吸や重心移動といった身体の生理的リズム、そして音の消え際(リリース)の制御と、深く連動していることを発見しました。 4.メソッドの構造 ─ 言語のリズム ここで、メソッドの要素のひとつ、『言語リズム』を紹介します。日本語のリズムは1・3拍目にアクセントが乗るオンビートです。一方、英語やグローバルポップスは2・4拍目のバックビートに推進力の核があります。この違いを意識せずに歌唱すると、譜面上は正しくても「なぜか合わない」壁にぶつかります。本メソッドは、楽譜や歌詞をなぞって感覚で歌うのではなく、音を構造として捉え直し、身体を使ったワークと、音の認知科学に基づくイヤートレーニングによって、音を聴き取る力そのものを高めていきます。 図解:言語リズムによるリズム認知の壁 この言語リズムは、本メソッドが扱う多層構造の一例です。その構造は、大きく3つの層に整理されます。以下の各層が連動することで、これまで「感覚」とされてきたグルーヴが、分析・設計が可能な対象になります。 (1) 第一層:身体的・生理的リズム(グルーヴの起点) これはメソッドにおいて、演奏や制作の最も深い土台となる「身体性」の領域です。 ■呼吸と重心移動: 音楽を単なる「音の羅列」ではなく、身体の生理的なリズムや重さの移動として捉えます。これが欠如すると、どれだけ正確なタイミングで音を鳴らしても、グローバル市場で求められる「推進力(Propulsion)」や「うねり」が生まれません。 ■役割: パフォーマーが無意識に行っている身体操作を言語化することで、チーム全員が「同じうねり」を共有するための共通言語となります。 (2)第二層:音の設計(アタック・リリースと粒立ち) ここでは、音そのものの物理的な性質を分析・設計します。 ■アタックとリリースの制御:リズムの輪郭を決定づける、音の立ち上がりと消え際を精密にコントロールします。 ■音の粒立ちとゆらぎ:一定の機械的なリズムではなく、人間らしい「温かみ」やグルーヴを生むための時間的なゆらぎ(微細なズレ)を能動的に配置します。 ■役割:音を「点」ではなく、空間や身体に作用する「粒」として捉え、リスナーの