【ポイント】 ○中南米に生息する小型鳥類マイコドリにおいて、果実食への適応が、派手な求愛行動や鮮やかな羽色の進化に先行して起きていたことを明らかにしました。 ○マイコドリは、旨味受容体を転用して果実に含まれる糖の味を感知する能力を獲得していたことを明らかにしました。 ○味覚や消化といった基盤的な生理機能の変化を伴う食性の変化が、その後の行動や繁殖戦略の進化を促し、生物多様性の創出に繋がった可能性を示しました。 【概要】 東京科学大学(Science Tokyo)生命理工学院 生命理工学系の戸田安香准教授(明治大学客員研究員)と明治大学 農学部 農芸化学科の石丸喜朗教授らの研究チームは、マックスプランク研究所ディレクターのモッド・ボールドウィン(Maude Baldwin)博士、イーストカロライナ大学のクリストファー・バラクリシュナン(Christopher Balakrishnan)准教授らとともに、中南米に生息する小型鳥類マイコドリを対象に、ゲノム・機能・進化解析を統合した研究を行い、果実食への適応が、華麗な求愛行動や鮮やかな羽色の進化に先行して起きていたことを明らかにしました。 マイコドリはオスのみが鮮やかな羽色をしており、メスとの間に顕著な雌雄差(性的二型)が認められます。さらにオスは、宙返りや空中ジャンプ、音をたてる高速羽ばたきなど、鳥類の中でも特に複雑でアクロバティックな求愛行動を示します。しかし、こうした極端かつ洗練された行動がどのようにして成立したのか、その進化的な背景は十分に解明されていませんでした。 研究グループは、5種のマイコドリ科鳥類のゲノムを比較解析し、集団ゲノム解析や進化解析を実施しました。その結果、味覚受容体T1R(用語1)や消化酵素LPH(lactase-phlorizin hydrolase)などの遺伝子に、正の選択(用語2)がはたらいていることを見いだしました。そこで、培養細胞を用いてこれらの遺伝子から作られるタンパク質の機能解析を実施し、マイコドリでは旨味受容体であるT1R1/T1R3が糖を検出する能力を獲得していることを明らかにしました。また、LPHの機能が低下したことで、未熟な果実を食べても体内で有毒な化合物が発生しない可能性が示されました。これにより、マイコドリは高栄養な果実を効率よく利用できている可能性があります。 こうした生理機能の変化は、派手な羽色や求愛行動の進化よりも早い段階で生じていました。つまり、果実食への適応が、後の強い性選択を支える基盤になった可能性が示されました。 本研究により、感覚(味覚など)や消化といった基盤的な生理機能の進化が食性の変化を支え、それが行動や繁殖戦略の大規模な進化を駆動することで、生物多様性の創出につながった可能性が示されました。本成果は、6月10日付(米国東部時間午前11時)の「Current Biology」誌に掲載されました。 1.Lance-tailed manakin(Chiroxiphia lanceolata(学名)、ハリオセアオマイコドリ)。メス(右)と比較して、オス(左)は鮮やかな羽色を有す。果実食に特化している。Photographer: Esteban Mendez, Location: Isla Boca Brava, Panama ●背景 オスのクジャクの羽に代表されるように、異性をめぐる競争によって生じる「性選択」は、生物の多様な形態や行動を生み出す重要な因子の一つです。鳥類においては、マイコドリ、極楽鳥、コティンガといった派手な羽色と求愛行動で知られる鳥たちは異なる科に属しているものの、いずれも果実食に特化しています。しかし、この食性と羽色や求愛行動の進化の関連は十分に理解されていません。 本研究では中南米に分布する小型鳥類であるマイコドリに焦点を当てました。マイコドリは、多くの種においてオスが集団的な求愛場(レック)を形成し、メスをめぐる激しい求愛競争を行います。一方で、熱帯に生息し、年間を通じて果実を安定的に利用できることから、果実食に高度に特化しています。これまで、栄養豊富な果実の利用と性選択の関連が指摘されてきましたが、その遺伝的・生理的な背景は十分に解明されていませんでした。 ●研究成果 本研究では、5種のマイコドリ科鳥類を中心に、他の鳥類を含めた比較ゲノム解析を行いました。その結果、マイコドリでは性染色体(Z染色体)の遺伝的多様性が常染色体に比べ低下しており、一部のオスのみが繁殖に成功する強い性選択が長期的に生じてきたことが示されました。さらに、糖輸送体、代謝や消化に関わる酵素、味覚受容体など、食性に関わる多数の遺伝子で正の選択が検出されました。 さらに、味覚受容体の機能解析により、マイコドリでは本来、糖を