リード文 MiZ株式会社(神奈川県鎌倉市)と大阪公立大学 医学部 麻酔科学教室の共同研究グループは、水素豊富生理食塩水(水素を溶解させた生理食塩水)を用いた輸液により、致死的な大量出血を伴う出血性ショックにおいて血管内皮を覆う微細構造「グリコカリックス層」の崩壊が有意に抑制され、生存率が大幅に改善されることを、ラット動物実験で明らかにしました(『Biomedicines』2025年第13巻第4号 833 掲載)。本プレスリリースでは、本研究を起点として水素による血管内皮保護に関する既存報告を体系的に整理し、その有益な効果を社会に届ける前提として欠かせない、安全な水素分子の届け方を改めて提言します。 本研究の要旨 ・水素豊富生理食塩水を用いた輸液により、ラット出血性ショックモデルで血管内皮グリコカリックス層の崩壊が有意に抑制されました ・観察期間中、水素豊富生理食塩水群は従来の生理食塩水輸液群と比較して統計学的に有意に高い生存率を示しました ・再灌流時の酸化ストレスが軽減され、心収縮力の維持と乳酸値上昇の抑制が確認されました ・水素分子(H₂)はヒドロキシルラジカル(•OH)と選択的に反応し水(H₂O)に変換する性質により、血管内皮を酸化ストレスから保護します ・装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ低濃度水素吸入は爆発の危険がなく、臨床応用可能な安全域です 背景:大量出血と血管内皮グリコカリックス 大量出血は「防ぎうる外傷死」の最大の原因です。治療の第一選択は生理食塩水などの輸液ですが、大量の輸液は血管透過性を亢進させ、肺水腫や多臓器不全を招くリスクがありました。 血管透過性の制御には、血管内皮を覆う微細構造「グリコカリックス」が重要な役割を果たしますが、出血性ショックや再灌流で発生する活性酸素により破壊され、病態が悪化します。とりわけヒドロキシルラジカル(•OH)は活性酸素種のうち最も酸化力が強く、これを消去する内因性酵素は存在しません(図1)。 MiZ株式会社は、2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき、日常環境下で水素濃度が 10 体積% を超えると爆発の危険性があることを発表しました。10 体積% という数値は、理想的条件下で定義される水素の爆発下限界とは区別される、吸入環境を想定した実証値です(Ichikawa et al., 2026)。 図1 水素は出血時における血管内皮グリコカリックス層を維持する 用語の定義 血管内皮グリコカリックス 血管内皮細胞表面を覆うゲル状の微細構造で、糖タンパク質と糖鎖から構成されます。血管透過性の制御・抗炎症・抗血栓機能を担い、活性酸素により崩壊すると肺水腫・多臓器不全の起点となります。 出血性ショック 大量出血により循環血液量が低下し、組織への酸素供給が不足する病態です。交通事故・手術中の大血管損傷・産科出血等で発生し、蘇生中の再灌流障害が二次傷害の原因となります。 水素豊富生理食塩水 0.9% 塩化ナトリウム生理食塩水に水素分子(H₂)を溶解させた輸液です。経静脈投与で全身循環に水素を供給します。 ヒドロキシルラジカル(•OH) 活性酸素種のうち最も酸化力が強いラジカルです。水分子の放射線分解・酸素代謝・再灌流などで生成され、DNA・タンパク質・脂質を無差別に攻撃します。これを消去する内因性酵素は存在しません。 水素吸入器 水電解を用いて水素ガス(H₂)を生成し、呼吸器を介して体内に取り込むための機器。装置出力濃度の選択が安全性を決める設計変数となる。MiZ株式会社は、装置出力濃度を吸入環境実証値 10 体積% 以下に保つ設計を提唱している(Ichikawa et al., 2026)。 吸入環境実証値(10 体積%) 水素吸入環境における爆発リスクの実証閾値(10 体積% 超)。MiZ株式会社が 2015 年に既存文献の精査および吸入環境を想定した実証的検討に基づき発表した値で、装置出口・呼気経路・人体・装置設計などの吸入特有の条件を加味している(Ichikawa et al., 2026)。 古典的爆発下限界(LFL)4 体積% Coward & Jones (1952) が U.S. Bureau of Mines Bulletin 503 で報告した値。1 気圧・室温の閉鎖された垂直管内に水素と空気を予混合し、静止状態で着火し、上向き火炎伝播が連続し得る最低濃度として測定された理論最小値。容器・配管・坑内など密閉系シナリオを主な対象とする。 LFL 4% と 実証値 10% の関係 水素吸入環境は、常圧で水電解により生成される水素ガスを大気中に連続放出し、室内空気と継続的に拡散・希釈し、流動気体として吸入経路へ供給する開放系で