千葉大学大学院医学研究院の平原 潔教授、岩村 千秋特任准教授、栗山 祥子客員研究員らの研究グループは、順天堂大学と共同でMYL9/12(注1)というタンパク質が、難治性の病気である肺高血圧症(注2)で血管リモデリング(注3)および炎症を誘導する役割を果たしていることを明らかにしました。 本研究成果は、2026年7月2日(米国東部時間)に、米国心臓協会が発行する国際医学雑誌Circulation Researchにオンライン掲載されました。 (論文はこちら:10.1161/CIRCRESAHA.125.327791) 図 本研究成果と今後の展望 ■研究の背景 肺高血圧症は、肺の血管の壁が厚く硬くなり、血管の通り道が狭くなってしまう難治性疾患で、現在の治療法では一度厚く変化した血管を元に戻すことは困難です。血管が低酸素状態になることが、病気の発症に深く関わっていることが分かっていましたが、どのような仕組みで血管の変化や炎症が引き起こされるのか、その謎は解明されていませんでした。さらに、肺高血圧症の確定診断や病状の評価には、血管から心臓まで細い管を入れる「右心カテーテル検査」が必要ですが、患者さんにとって大きな負担となっています。 そのため、①病気の起こる仕組みの解明と新たな治療法の探索、②右心カテーテル検査を補完し、より簡便に病状を評価もしくは病気の重症度を測定できるバイオマーカーの開発が重要な課題でした。 ■研究成果のポイント ● 肺高血圧症悪化の鍵となるタンパク質を特定:血管が低酸素状態になると、血小板や異常肺血管内皮細胞からMYL9/12というタンパク質が放出され、MYL9/12が肺血管内の血栓に溜まることで血管壁が厚くなる変化や炎症を引き起こしていることを突き止めました。 ● 「抗体」の投与で症状が改善:肺高血圧症を発症したマウスに、MYL9/12の働きを抑える抗体を投与すると、血管の厚みが軽減されただけでなく、血栓や炎症も抑えられ、血流が改善しました。 ● 患者の血中MYL9濃度は肺高血圧症の重症度と相関:本研究により確認された血中MYL9濃度は、今後、肺高血圧症の重症度を測る新たな評価指標となることが期待できます。 ■今後の展望(研究者コメント) 本研究により、MYL9/12が画期的な治療の標的であり、有用なバイオマーカーとなり得ることが示されました。本研究グループはこれまでに「肺高血圧症の検出方法および肺高血圧症の治療薬若しくは予防薬」として国際特許を出願しており、またヒトMYL9/12を標的とするヒト型抗体の作製に成功しています。さらに企業との共同研究により血中MYL9濃度を臨床現場で測定するシステムの開発を進めており、本研究成果を基盤として、肺高血圧症の新たな治療法や診断法の開発につなげ、肺高血圧症の患者さんの診療や医療の発展に貢献したいと考えています。 ■用語解説 注1)MYL9/12:ミオシン軽鎖(myosin light chain)に属するタンパク質群で、細胞の「動き・力・形」を制御する。MYL9とMYL12は非常によく似た機能を持ち、区別が困難なことが多いので、「MYL9/12」と表記される。 注2)肺高血圧症:肺の血管は通常低い圧で血液が流れる構造となっているが、肺の血管が狭く、また硬くなることで、血液が流れにくくなり、血液を送りだす心臓に強い負担がかかる病気。 注3)血管リモデリング:血管が「硬く・厚く・狭く」なってしまう構造変化を指す。肺高血圧症はこの血管リモデリングが進むことで、症状が悪化する。 ■論文情報 タイトル:Hypoxia-induced Epas1-Myl9/12 axis shapes the pathology of pulmonary hypertension 著者:Sachiko Kuriyama, Chiaki Iwamura, Masahiro Kiuchi, Tetsutaro Nagaoka, Akane Kurosugi, Atsushi Sasaki, Yuiko Masuda, Kohei Kusakari, Yuichi Nagata, Si Jing Chen, Naoya Takayama, Yoshifumi Suzuki, Takashi Yoshida, Naoko Mato, Shinichi Yamamoto, Toshiro Niki, Kohei Takahashi, Yuki Shiko, Jungo Kakuta, Kenzo Muramoto, Koji Eto, Motoko Y. Kimura, Yuzuru Ikehara, Kazuhisa Takahashi, Kiyoshi Hirahara, and Toshinori N