東京大学大学院教授 マイルス・ぺニントン デザイン先導イノベーションを専門とし、DLXデザインラボのディレクターを務める。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで教授・学科長を歴任後、17年より東大生産技術研究所教授、東大総長特任補佐。 株式会社アズパートナーズ 代表取締役社長兼CEO 植村健志 介護付きホームを中心にシニア・不動産事業を展開し、EGAO link®などのIoTで介護業界のDXを牽引。リクルートコスモス、宝工務店で住宅開発・経営に携わり、2004年アズパートナーズ設立。(社)全国介護付きホーム協会副代表理事。 超高齢社会が進む日本において、介護業界は人材不足や業務負担の増大といった課題に加え、高齢者の「孤独」という構造的な問題に直面しています。特に、介護施設に入居後も孤独が解消されない現状は、従来のケアやテクノロジーだけでは十分に対応できていない未解決領域として注目されています。 アズパートナーズでは、IoTシステム「EGAO link®」やAIの活用によって業務効率化を進め、職員がご入居者と向き合う「時間の創出」を実現してきました。その時間を活用し、一人ひとりの「夢を叶える」ケアを実践することで、孤独という課題に現場から向き合っています。 こうした実践を基盤に、東京大学 生産技術研究所 DLXデザインラボと共同で研究を実施。デザイン思考(人間中心デザイン)を用いて介護現場の観察やインタビューを通じて、孤独の本質を「関係性の課題」として再定義し、従来の効率化中心の介護DXとは異なる、新たな価値創出モデルの可能性を明らかにしました。 本取り組みは、テクノロジー・AI・データ・コミュニケーションなど多領域に広がる新たな事業機会を創出するものです。産官学連携による社会実装と産業化を通じて異業種企業との共創へと発展する可能性を秘めています。 本対談では、こうした共同研究を通じて見えてきた孤独という社会問題、デザインを通じて高齢者コミュニティの中に喜びやつながり、生きがいを生み出す方法について、 そして新たな価値創出と共創の可能性について議論しました。 入居後も消えない「孤独」:介護現場で顕在化する見えない課題 東京大学 マイルス・ぺニントン教授(以下ぺニントン教授) 研究を始める際、やはり一番大切なテーマとして出てきたのが「孤独」で、私自身も身近なテーマだと感じています。実は母がイギリスで高齢者ホームに入っているのですが、入居をきっかけに、家族や友人、とくに友人との関係が途切れてしまい、寂しさを感じていました。ホームに入居してからも毎日帰ろうとする姿を見てとても胸が痛みました。こうした経験からも、高齢者の孤独はとても切実で、社会全体で向き合うべき重要な課題だと感じました。 IoT・AIで生まれた“時間”は何を変えたのか:介護現場から生まれた価値創出の最前線 株式会社アズパートナーズ 代表取締役社長兼CEO植村健志(以下植村社長) 私は住宅デベロッパーとしてキャリアをスタートし、高齢者の住まいに関わっていたのですが、建物の良さ以上に「暮らし」が重要だと感じるようになりました。そして一人ひとりが望む暮らしは違うのに、画一的な生活になってしまっている現状を見て、その人らしく楽しめる暮らしを実現したいと考えるようになりました。 ただ実際の現場は人手不足で余裕がないことも事実で、最初こそ苦労しましたが、現在はIoTシステムやAIを取り入れ業務効率化することでご利用者と関わる時間を増やしています。特に弊社はご利用者の夢を叶えるプロジェクトを実施しており、その取り組みによりご利用者の孤独と向き合っています。 共同研究を経て、和やかに対談開始。 ぺニントン教授 今回は人間中心デザイン(Human-Centered Design)という方法で、実際に介護現場にお邪魔し、職員やご入居者、その周囲の人にインタビューすることで望む生活を直接ヒアリングするという方法で研究を進めました。わたしたちは単なるデザイナーやコンサルタントになるのではなく、企業と大学の架け橋になること、大学と企業の研究の重なりを見つけ出すこと、それらが出会う場所を見つけることを念頭に置き調査を進めました。 テクノロジーは介護の何を変えるのか:現場で見えた価値創出の新領域 ぺニントン教授 アズハイムの印象ですが、かなり高品質で家庭的な雰囲気、まるで家のようだと感じました。私の母が入居しているイギリスのホームは、とても素敵な場所で、満足していましたが、さらに上があると感じました。IoTやテクノロジーを導入しているのにもかかわらず、インテリア、雰囲気、設備も家庭的で、住民に配慮されていました。もちろん温かいケアも同様にきちんと実践されていました。そして思いがけなくうれしかったのは