UNTEN INNは、有限会社E・M・Iが運営する、沖縄県名護市にある元産婦人科医院を再生したホテルです。かつて命が生まれた場所の記憶を、「子どもに、生まれ変わる旅。」というコンセプトへ翻訳し、大人になってしまった旅人が未知に出会う感覚を取り戻し、子どもに生まれ変わる滞在を提案します。 元産婦人科医院を再生したUNTEN INNのロビー。標本、古物、鹿角の家具、遊びの気配が混在し、旅人を「子どもに、生まれ変わる旅。」へ導く。 元産婦人科という建物の記憶を、宿泊体験へ翻訳する UNTEN INNの建物は、かつて産婦人科医院として使われていました。 一般的なリノベーションでは、古い建物を新しい用途へ置き換えることが中心になります。しかしUNTEN INNでは、建物が持つ固有の記憶を消すのではなく、体験の中心に置きました。 「生まれる場所」だった建物を、大人が子どもの頃の感覚へ戻っていく場所へ。元産婦人科という来歴を、単なる保存や演出ではなく、宿泊体験そのものへつなげています。 見るための宿ではなく、感覚を変えるための宿 UNTEN INNでは、宿泊者は客室に入る前後から、標本、古物、植物、地元アーティスト作品、レトロゲーム、邦楽棚などが混在する共用部を通ります。 棚に並ぶセレクトされた邦楽の名盤。音にふれる時間も、旅人の記憶や好奇心を呼び起こす滞在の一部になる。 館内には、線香の香りや、カフェから漂うコーヒーの香りが重なります。棚にはセレクトされた邦楽の名盤が並び、床を歩く靴音、古物の質感、畳に座る時の身体の低さもまた、滞在の一部になります。 それらは大きく主張するものではありませんが、旅人の感覚を少しずつ日常の外へずらしていきます。 特別な鍵で開く、宿泊者だけのラウンジ。昼はカフェとして街に開き、夜は旅人のための静かな共有空間へ。 展示は一方的に鑑賞するものではなく、近づき、眺め、座り、遊び、音や香りを感じながら、館内を回遊する中で、答えのないものに少しずつ引き寄せられ、好奇心が芽生えていく構成です。 ロビーや展示、レトロゲーム、邦楽棚、和室は、雰囲気づくりのための装飾にとどまりません。旅人が知らないものの前で立ち止まり、子どもの頃に秘密基地や博物館を覗き込んだ時のような感覚を思い出すための装置でもあります。 未知と好奇心 館内に散りばめられた蝶の標本や植物。旅人が目の前のものに立ち止まるために配置している標本や小さな収集物を収めたキャビネット。館内の移動の途中にも、未知に出会う仕掛けがある 3Fロビー。光、植物、古物が混在し、旅人を館内に散りばめられた「答えのない未知」へ導く。 子どもの頃に日常が楽しかったのは、世界がまだ未知だったからです。名前も理由もわからない。けれど、なぜか気になる。怖いのか、美しいのか、変なのか、すごいのかもよくわからない。それでも目が離せないものがありました。 好奇心は、答えを知った時に生まれるものではありません。少しわかりそうで、でもまだわからない。知っているものに似ているのに、どこか違う。その中途半端な距離に、人は引き寄せられます。 見たことのないもの、初めて触れる質感、知らない匂い、聞いたことのない音。廊下や部屋の隅に落ちる闇の気配にすら、私たちはある種の感情の揺れを覚えます。 そうした小さな違和感が重なることで、旅人は自分の中に残っていた好奇心に気づいていきます。 UNTEN INNでは、標本、古物、アート、遊び、音、香り、畳や障子のある和室を通して、「答えのない未知」を館内のあちこちに散りばめています。 インターネット以後のヴンダーカンマー 自称“貴族”こと、マネージャー近影。ホテルの案内人、ケナガネズミ かつてヴンダーカンマーは、世界の珍しいもの、遠いもの、得体の知れないものを集めた「驚異の部屋」でした。もともとは、権力者や貴族が自然物、人工物、工芸品、学術資料などを集め、自らの世界観として見せるための空間でもありました。 大切なのは、希少性そのものではなく、「何を集め、どう並べ、どんな世界として見せるか」です。 現代のヴンダーカンマーは、標本や古物だけに限られません。デジタル、アニメ、漫画、フィギュア、プラモデル、ラジコン、レトロゲーム、邦楽の名盤。誰かが強く惹かれ、集め、並べ、残し、見せたくなったものは、すべて現代のキャビネットになり得ます。 一方で、インターネットによって、世界中の珍しいものは誰もが手元で見られる時代になりました。かつてヴンダーカンマーが担っていた驚きは、いまや画面の中で日常化しています。 それでも、情報として知ることと、実際にその場で立ち止まり、距離を測り、質感や気配を受け取ることは違います。 UNTEN INNは、ネット上のキャビネットでは得られない、目の前で立ち